漢方の基礎理論

五行学説~すべては自然の摂理~

五行図G01 五行学説とは森羅万象すべてを「木・火・土・金・水」の5元素に分類した考えです。
この5つが持つ性質や特徴に、自然に存在するすべてのものを当てはめて分類しています。 今から数千年前に書かれた中国最古の医学書である『黄帝内経』(こうていだいけい)にも 五行学説が基本的な考え方のひとつとして診断や治療に生かされてきました。
五行の「行」という字には、巡るという意味と秩序という意味があります。 五行とは木・火・土・金・水それぞれが自然に助け合い、 また、抑制しながらバランスをとっているという意味です。 このバランスが崩れると自然界では天災・災害にもつながります。
互いに助け合う母子関係を「相生」、 相手の過剰を抑制する関係を「相剋」といいます。

木・火・土・金・水それぞれの相生・相剋の関係は以下のようになっています。

木 木はのびのびと上に向かって伸びる。圧迫を嫌う。木が燃えて火を生む。
根によって土から養分を奪い、土が乱れないよう根で統括している。
火 火は燃えてものを温め、温度が上昇する。ものを燃やして土を生む。
熱で金(金属)を溶かし、転化させる。
土 土は収穫や豊かな栄養を表す。土が凝縮し固まることによって金を生む。
土によって氾濫する水を押しとどめる。
金 金は鉱物。収斂するはたらきを意味する。鉱物から水が湧き出る。
金(金属でできた刃物)によって木を切り倒す。
水 水は冷やし、潤す。上から下へ流れる性質。水を与えることで木が育つ。
水によって火は消される。

自然の五行図と同じように人体に当てはめた五行図も助け合う相生、 抑制する相剋の関係があり、互いに影響しあっていると考えられています。 自然の五行学説を人体に当てはめたものが次の図(G-02)です。
五行図G02
たとえば肝臓は心臓と相生の関係にあり心臓の働きを助けています。 脾臓とは相剋の関係にあり脾臓の働きを抑制しています。 もし、なんらかの原因で肝の機能が低下すると、 肝が助けている心の機能が低下したり、 抑制しているはずの脾の機能を抑制できなくなります。 肝の影響で心の機能が低下すれば同じように心の相生・相剋の関係のある臓腑にも影響がでてきます。 脾の機能が活発になりすぎた場合も脾の相剋である腎をさらに抑制し、 腎の機能の低下につながってきます。 このように、人体もそれぞれの臓腑が影響しあいバランスをとっているのです。

自然の環境である季節、感情、味覚なども同じように五臓に影響を与える大切な要素です。 自然界と人体それぞれの関係をまとめたものが以下の表になります。

  自然界 人体
  五季 五方 五悪 五色 五味 五臓 五腑 五根 五体 五志
小腸 血脈
長夏 湿 肌肉
西 大腸 皮膚
膀胱

たとえば肝は木の性質を持ち、すくすくと育つ木のように春(五季)によく機能します。 肝がのびのびと機能できなくなると、腑となる胆に影響を与えます。 それから、 ・顔が青くなる(五色)  ・筋肉・関節痛になる(五主)  ・目が病む(五根)  ・涙が出る、もしくは涙が出ず渇き目になる(五液)  ・身体が脂臭くなる(五香) ・爪の色カタチに変化が出る(五支)  ・その影響は自律神経に現れ、怒りやイライラという感情になります。(五志)
といったように人体の様々なところに影響を与えます。 この関係を知っていれば、日々変化する自分の身体の状態の根源が見えてきます。

五行の状態やバランスをチェックしてみましょう。 ⇒ 五行チェックシート

補足:以上五臓五腑ですが、実はもう一対、「心包」という臓と、「三焦」という腑があります。 心包は大切な臓器である心の臓を包み込んで保護する目には見えない袋で、 三焦とは人間が体温を維持するために三つの熱源を持っている、という考えです。 漢方中医学では、この「六臓六腑」が、 体を構成する3大要素、気・血・水を運行し人間の身体をコントロールしていると考えています。